攻殻機動隊 S.A.C. 第26話のいちシーン(ネタバレ注意)
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オリジナルなきコピーを作り出す情報の並列化の反復現象によって起こった一連の事件。「絶望の始まりに感じてならないけど……」と俯く笑い男ことアオイに対し、個を取り戻すための一つの可能性に、AI搭載の自律思考戦車タチコマの自己犠牲の心を獲得した過程から、〈好奇心〉を提案する少佐(草薙素子)の会話。
草薙 「なるほど確かに笑い男ではないわね」
アオイ 「いらっしゃい。思っていたより遅かったですね」
草薙 「よく言うわよ。招待状もよこさないくせに」
アオイ 「あなたがじっとしていれば人はあなたに会いに来るだろう」
アオイ 「イエス」
草薙 「まぁあなたの処遇をどうするべきか考えあぐねてたってのもあるんだけど」
アオイ 「僕はまた、あなたがあのまま死んじゃうつもりなのかなってちょっと心配しちゃいましたよ」
草薙 「まだそれほど死に期待はしてないわ。完全リモート状態の擬体電脳が破壊されたときの衝撃で十分臨死体験はできたけど」
アオイ 「で新品の擬体を壊しちゃっていまだに擬体換装もしていない」
草薙 「目ざといわね」
アオイ 「覗きが趣味ですから」
草薙 「それにしてもなぁにここ。まるで情報の墓場じゃない、こんなところから世界を変えようなんて本気で考えてたの」
アオイ 「まぁ始めは幾分」
草薙 「で今の気分はどう」
アオイ 「特別な感慨は沸いてきませんでした。実は僕の中では、あなたと記憶を共有した時点ですべてが終わってしまったのかもしれません。後はあなたがうまくやってくれるだろうって」
草薙 「全くたいした嘘つきよね。何が邪魔しないでくれよ」
アオイ 「すいません。でもすべての情報は共有し並列化した時点で、単一性を喪失し動機なき他者の無意識に、あるいは動機ある他者の意思に内包される」 草薙 「それは経験から導き出されたあなたの言葉?」
アオイ 「イエス。事実最後はあなたまで笑い男を演じていましたからね」 草薙 「たしかにあれは面白い現象だったそれにしてもこれだけの事件を引き起こした最初の動機は何だったの?」
アオイ 「あなたは世界中で起こる何もかもがインチキに見えてるんでしょうね」
アオイ 「イエス。でもまぁ僕自身電脳化の権化みたいな人間だから少なからず電脳硬化症に対する恐怖みたいな物があったのかもしれないけど。あれは僕がたまたまネット上で見つけた一片のメールがきっかけだったんです。おそらくセラノゲノミクスに宛てて送られたであろう、その脅迫メールはセラノ製マイクロマシンの無効性と、村井ワクチンの効能とを比較検討した論文で武装されていた」 草薙 「それを書いたものが笑い男のオリジナル」
アオイ 「しいて言えばですが」
「私は私が見える世界を皆に見せるための機械だ」
アオイ 「イエス。僕は僕だけがたまたま知りえた情報の確認と伝播を自身の使命と錯覚し奔走した」
草薙 「で見事に玉砕。無垢な媒介者は社会システムの醜悪さに落胆し口を噤んだ」
アオイ 「イエス。そして僕は消滅する媒介者となった。あたかも新作を発表しないことでその存在を誇張されてしまう作家のように。つまりそれは消滅することによって社会システムの導体を規定する媒体であり、最終的にはシステムの内側にも外側にもその存在の痕跡をとどめない」 「言葉では知っていても実際に目の当たりするまでは信じられなかった。オリジナルの不在がオリジナル無きコピーを作り出してしまうなんてね。あなただったらあの現象を何て名づけますか?」
草薙 「STAND ALONE COMPLEX」
アオイ 「イエス STAND ALONE COMPLEX。元来、今の社会システムにはそういった現象を引き起こす装置が始めから内包されているんだ。僕にはそれが絶望の始まりに感じられてならないけどあなたはどう」 草薙 「さぁなんとも言えないわね。だけど私は情報の並列化の果てに個を取り戻すための一つの可能性を見つけたわ」
アオイ 「ちなみにその答えは」
アオイ 「なるほど、それには僕も気づかなかったな。僕の脳みそはすでに硬化し始めている。でこれから僕はどうなるんですか誘拐罪で逮捕、それとも同時多発テロ教唆の罪かな」
草薙 「さぁその件に関しては彼に一任してあるから直接聞いてみたら」
荒巻 「さっきから聞いていたが、外部記憶装置無しにはさっぱりついていけない会話だな。ここの本は全て読んだのかね」 アオイ 「そこまでは」
草薙 「紹介するわ、うちのボスで公安9課長荒巻大輔」
アオイ 「はじめまして」
荒巻 「もはや慣例として行われているに過ぎない、出版物の保存という索然とした仕事をこれからも続けていくつもりかね」 アオイ 「もし許されるのであれば」
荒巻 「今回の件で笑い男のオリジナルは法的に存在しなかったと結論付けられるだろう。そこで提案だが、どうだそのハッカーとしての腕を生かして我々9課の9人目のレギュラーにならんか」 アオイ 「驚いたなぁ、僕をスカウトするつもりですか」
荒巻 「そうだ」
アオイ 「参ったなぁ、いささか楽しそうではあるけど…でもやっぱりやめときます。それに残念ながら僕、野球が下手ですから」
草薙 「ふられちゃったわねぇ。どうする?」
荒巻 「どうもせん。公安9課は、お前やわしが望む限り犯罪に対して攻性の組織であり続ける。それだけだ」